2020年10月19日、ソノリテは「コロナウイルス感染対策」を徹底した新オフィスに移転を行った。

 

なぜ? どんな思いで?

 

移転の経緯、会社やオフィス対する考え、これからの展望などをテーマに、ソノリテ代表取締役・齋藤和政に話を聞いた。

■新しい時代の「ソノリテのオフィス」の誕生

――まず、オフィス移転の経緯についてお聞かせ願えますか。

「ダイバーシティ経営(※1)」が、当社の考えのひとつ。多様な人たちが多様な働き方をすることで新しいイノベーションを生み出す、という方向性でこれまでオフィスの設計をしていたので、コロナ以前には「いろんな人が交流する場」があったんだよね。非日常な空間というか、皆が集まりやすい空間。畳があったり、猫がいて猫を交えて皆で話したり。

でも、新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、これからはコミュニティの在り方が大きく変化するだろう、と考えたときに、「人が交わるタイプのダイバーシティ経営」を一旦「捨てる」ということだけを決めた。

 

――捨てる、ということを先に決めたんですか。

そう(笑)旧オフィスの解約を2020年4月末に決めて、次のオフィスはまだ決まってないのに、「10月末には出ていくこと」が先に決まった。

 

――では、その「捨てた」あと、というか、新しいオフィスにここまでのコロナ対策をしようと決めたのはどうしてですか。

もともと、オリンピックが開催される、ってなったときに、交通機関の混雑がひどくなるに違いないから、在宅勤務を増やそう、という話が世間に持ち上がっていたよね。そういうちょっとのんびりした話題だったところから、コロナによって「在宅勤務」というものがだんだん重要度を増してきた。そういう「人の命がかかっている問題として考えなくてはいけない」という状況になってきたのが、オフィスに徹底したコロナ対策をしようと思った決め手。

 

――それが原動力になったわけですか。

そうだね。「そもそもオフィスっているの?」ということをすごく考えさせられた。「そもそもオフィスってなんだっけ?」ということも考えさせられた。考えさせられた、というのが結果として新しいオフィスを設計する原動力になったとも言えるかな。

オフィスというか「会社ってなんだ?」って話にもなるから、そこも込みで考えないといけないしね。そういうことを考えるのは結構楽しかった。皆、「会社って何だっけ」みたいなのをたぶんちゃんと考えてないよね。

 

――皆考えてないことを、齋藤社長はきちんと考えたんですね。

うん。オフィスってなんで必要なのかな、って考えてみた。オフィスなくしちゃった会社いっぱいあるけど、それで本当に大丈夫なのかな、って。

これまで、いろんな人が出会う場所をたくさんつくってそこでイノベーションが生まれたらいいと思っていたけど、これからは出会う距離感みたいなものがソーシャルディスタンスというもので制限される。どうして制限されるかというと、「基本的に人は近づきたい」ものだからだと思うんだよね。プライベートな関係を築く、ということじゃなく「働くために」誰かと誰かが偶然にでも必然的にでも、出会わないと何も起きないんじゃないかと思う。

 

――それはリアルな空間で出会う、ということですか。

そう。バーチャルな関係性は、リアルでの関係性の延長線上にあるものだからね。そう考えると、やっぱりオフィスは必要だということになる。人は出会いたい生き物なんだと思う。

だから、出会う場を安全にしたい、安全にしなくちゃいけない、ということになる。そのために、がっちりパーテーションをつくったんだよね。

 

――この時代に合う安全なオフィスをつくった、と。

時代に合う、とうより、時代に逆行したい、という感じがある。「緊急事態だから家にいろ」というのは短絡的だと思う。安全なオフィスであれば、出勤できるじゃない。「家でも働けるから家でいいじゃん」って、仕事や人間関係っていうのは、そんな簡単なものじゃないはず。

今年、大学に入った学生が、入学した途端に授業が全部リモートになって、キャンパスライフというものを経験できないでいて、同級生や先輩と顔を合わせることもできなければ図書館等の設備も利用できないでいる、っていう話を聞くと「それはダメじゃない?」ってなるでしょう、自然な流れとして。会社も同じことだと思うんだよね。

Office

■真剣なだけでは、ダメ

――新しいオフィスの、満足ポイントを教えてください。

遊び心が入れられたこと。ソノリテはアソビゴコロが大事だから。

命にかかわる対策なので、真剣にやらないといけないんだけど、真剣にやりすぎると重苦しくなるでしょ。扉が自動で開くのも、ドアノブに触れないことが目的なんだけど、あの「ガチャ」って開く感じがちょっと面白いし、パンチングの壁も換気対策なんだけど見た目がちょっと面白い。

 

――ちょっとした面白さがあるだけで、出社が楽しくなりますよね。

うん、そうなってるといいな、と思う。

――では、満足してない、というか、まだまだだな、と思うポイントはどこでしょう。

多様性経営の実現という意味で言うと、まだまだだな、と思う。例えばトイレをバリアフリー、マイノリティに対応したものにしたい、とか。小さな建物では難しい部分があるけど……、今後も改善に向けて動き続けたいと思うね。

 

――では、「ソノリテっぽい」ポイントはどんなところでしょう。

猫だね!(笑)

 

――ねこ専務ダイゴロウですね。(※2)

うん。猫と一緒に働ける、っていうのは以前からソノリテの特徴だったわけだけど、実は「猫アレルギーの人もいるし、どうやって共存していこうか?」というのがずっと課題だった。それを今回、猫とともに働ける部屋と、猫は入れない部屋にしっかり分けることで解決できた。猫と働くことも、猫のいない空間で働くことも、どっちも選ぶことができる、というのが、ソノリテっぽさだと思う。

あとは、パーテーションのオーダーメイド。飲食店でよく見るような、置くだけのタイプでもよかったんじゃないかと思われるところを、なぜオーダーメイドでがっちり作ったしかというと、「もう永遠にこうする」という気持ちがあったから。新型コロナウイルスの感染がおさまったら外してもいいよね、ということじゃなくて。

 

――永遠にこういう対策をしていく覚悟、というようなことでしょうか。

それ以外にも理由はあって。ソノリテには、落ち着きがない感じっていうか、おとなしくない、子どもっぽい、みたいな社員が結構たくさんいて(笑)、そういう人には発想力もあるから、それを活かしてソノリテで仕事をしてくれているわけだけど、発想が自由だからなのかな、備品なんかを自由に動かしちゃうんだよね(笑)

――パーテーションも、置いてあるだけだったら動かしちゃうだろう、と?

そう(笑)ソノリテは、子ども力をどれだけ受容していくか、っていうのも大切にしてるから、まあ、怒るべきところは怒るけどできるだけ自由にしてあげる、という……、だからそのためにも怒らなきゃいけなくなる要素は潰しておこう、と。……平たく言うと「子ども対策」です!(笑)

■ジレンマとの闘い

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

 

自転車通勤を許可する予定。なかなか規則の整備に手間取っていて……、自転車にしろ在宅にしろ、実際にやろうとすると法律が邪魔をするんだよね。労災とか、宅地と商業地の違いとか、言い出したらキリがないくらいあるんだけど、とにかく法律が古臭い。社員にはたくさん自由な働き方をしてほしいのに、法律が壁になってそれができない、というジレンマがある。

法の解釈をしたり、ローカルルールをつくることで自由な働き方を増やしていきたいね。

※1ダイバーシティ経営
 多様な属性の違いを活かし、個々の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して全社的かつ継続的に進めて行く経営上の取組のこと。
※2ねこ専務ダイゴロウ
 ソノリテで飼っている会社猫。もとは捨て猫であったが、保護して「専務」として社員を癒すなどの職務を負っている。日々、取締役とともに出社しているが、雨の日は休むことが多い。

2021年2月 取材/広報・近藤

(感染症対策を行ったうえで取材・撮影しています)